世界を記述する夢

世界を記述する夢

世界を記述すること、私を記述すること。その両者だけが私に課された仕事だった。電子図書館の司書として務める傍ら、私は世界中に漂う数多の感情を、音楽を、絵画を、紅茶の味わいを記録しつづけた。キーボードはこれで七台目になる。終業後は手を休める間もなくキーを叩いた。無為に思われたその行いが、いずれの日か日の目を見ることを願っていたその翌日、電子図書館はその強固なセキュリティーを突破されて陥落した。あらゆる書物のデータは粉々に破壊され、あるいは無意味な数字の羅列に置き換えられた。館長は責任を取って辞意を表明したが、代わりになるような人材はどこにもいなかった。残されたのは私が手にした旧式のパソコン一台で、そこに詰まった情報が世界のすべてだった。海のことを記録しそびれたことを悔やんでももう遅く、嵐はすぐそこまで迫っていた。高波が世界を覆い尽くした。私のパソコンも浸水し、記述されていた世界は滅んだ。あとに残った頭脳とキーボードの残骸を抱いて、私は変わり果てた終末の世界にひとり立っていた。

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aranさんのDJプレイを流しながら、即興でSF掌編を書いた。

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小説を書けなくなって久しいけれど、なんとか形になって少しほっとしている。

今回書いた「世界を記述する夢」は、日々日記やブログを書きつづける自己というものを相対化したいという思いがあって書くことにした。

そういう点では「all the good girls go to hell」に通じるものがある。

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電子図書館の構想はかねてからあって、これまでも掌編や詩という形で書いてきた。

過去の作品としては、以前Twitterのフォロワーさんの短歌にインスパイアされた掌編などがある。

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図書館という場所に対しては並々ならぬ思いを抱いてきた。

それは図書館エッセイ集『図書館という希望』にも書いてきた通りだ。

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ブログ「広寒宮」で綴ってきた図書館にまつわるエッセイに書き下ろしを加えた、図書館エッセイ集です。

「もうひとつの家」としての図書館との付き合い方や、蔵書にまつわること、一利用者から見たコロナ禍の図書館の記録、幼少期に通った図書館との思い出など、今だから読みたい内容をぎゅっとまとめました。

本書が図書館を愛するすべての人の友となりうることを心から願っています。

 

-収録作品-

図書館という希望

ふたつの棚

図書館という友人

ふたたび図書館へ一

図書館の使い方を模索する

コロナ禍の図書館について

蔵書の整理

ふたたび図書館へ二

先達の目とBANANA FISHにみる図書館の精神

図書館という知の海に漕ぎ出す

図書館で知を拓く

学校の図書室の思い出

非常事態宣言下の図書館

本書に登場した書物

そうした自己というものと相対するために人は小説を書くのかもしれない。

プロになれるとか、なれないとか、そういうことは一旦傍に置いておいて、今は少しずつ再び小説を書く道筋をつけたいと考えている。

また昔のように描けるようになるか、正直なところ自信はないけれど、それでも日々創作やブログの執筆を通じて、書くことからは目を背けないでいたい。

 

現在第4回笹井宏之賞に落選した短歌50首を折本にして頒布中です。

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booth.pm

第四回笹井宏之賞落選作品50首を収めた短歌の折本です。 病める夏の日々を詠んだ、ゴシックな療養短歌を収めています。

この恋も忘れてしまう錠剤は不老長寿の薬となって

「しにたみのおさしみ」きみに告げたいの「おさしみ」としか云えないままで

ハルシャギク世界の果てをも埋め尽くし燔祭の焰を待つ初夏

ヒュプノスの恩寵のみに包まれて副作用の希死念慮来る

併せてよろしくお願いいたします。