新作掌編「黒真珠国」を公開しました&鏡花のこと

いきつらなので掌編を書きました。

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黒真珠国

ゲートキーパーがいたらいいね、私はひとりきり、海辺へ歩いて漁師に大丈夫かと訊かれてからちっとも変わっていない。入水できたらいいね、一歩踏み出す勇気があったらよかったね、その足取りがあまりにも重くて、海岸に立ち尽くして打ち寄せる波をずっと眺めていた。いつの日か、満潮の海に取り残されたこともあったね、竜宮城はすぐそこだったのかもしれない。海の底にあるという都で双六遊びをしてすごそうよ、花嫁にはなれない。あらゆる男という男たちを海月に変えて、残された女たち、女と男の狭間にあるものたちで暮らそうよ。珊瑚の冠、真珠の首飾りで着飾って、裸身にまとって踊ろうよ。夜も更けて月も傾き、やがてすべてのものが眠りにつくころ、私を抱いて、私に抱かれた女たちの雫だけで作ったヴェールを纏って、ひとりひとりの経血の血潮に染めて、この都の旗として、ゆらめく布に黒真珠を刺繍して、花の都にまさる国をつくろうよ。やがて滅びるまで交歓しつづけて、私たちの亡骸をサケビクニンが食べ尽すまで、書物に記して忘れないでいてね。

死にたい気持ちを抱えた人間を、傍で見守ってくれるゲートキーパーなる言葉にぶつかるたびに、私にはそういう人はいないし、とてもつらい気持ちになります。

誰にも迷惑をかけたくないから、ひとりでじっと耐えるしかない。

相談窓口に相談をしてもその時々で波長が合ったり合わなかったりして、なかなか難しいですね。

そういう中でも詩が友でありつづけていること、こうして掌編を書く余力がまだ残されていることに感謝したいと思います。

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ゆくゆくはまた1000字掌編などを書いたり、少しずつリハビリをしながら、小説執筆への道筋を立てていきたいと考えています。

 

掌編の内容に触れておくと、実話をベースにして、鏡花の「海神別荘」の要素をいくらか盛り込んだ内容になっています。

「海神別荘」はシネマ歌舞伎を二度観に行くぐらい好きな作品で、大好きなS.E.N.Sが音楽を手がけているのもうれしいポイントです。

主人ともこの作品で読書会をして、セリフ回しが気に入ったらしく、時々演じてくれます。

恋愛至上主義を掲げ、結婚をして家父長制の家庭に入らざるを得ない女性のあり方に強い抵抗感を抱きつづけた鏡花の作品は、結婚した今だからこそ余計に胸に響くものがあって、また再読したいなと考えています。

 

 

 

思い返せば泉鏡花記念館にも行けるうちに行っておいて本当に良かったなと思っています。

あの頃はまだいくらか体調も良かったですし、コロナ禍の影もなかったですし、なにより波津彬子さんの鏡花作品の原画を拝見できて、本当にうれしかったです。

また金沢も再訪できる日が来るといいなと願っています。