広寒宮

アマチュア作家・雨伽詩音の活動報告その他諸々

【お題参加】御法度

お題「最近見た映画」

最近、同居している彼が司馬遼太郎の『燃えよ剣』にハマってくれたこともあって、前々から見てみたかった大島渚監督の「御法度」を観た。

御法度 [DVD]

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ワダエミの衣装もきりっと冴えて美しく、もちろん松田龍平演じる加納惣三郎の美少年ぶりも目を引くものがあったのだけれど、武田真治演じる沖田総司はともかく、他のキャスティングが司馬遼太郎の描く土方歳三近藤勇にふさわしからず、なんとも中途半端な印象を受けた。

私は数年前に『燃えよ剣』を読み、沖田総司に夢中になって『新撰組血風録』も読んでいたから、加納惣三郎の美貌は一向にさほど心に響かず、ただただラストシーンに大いに期待していたのだけれど、やはりビートたけしではどうにもあの独白が様にならない。

一応原作「前髪の惣三郎」から引用しておくと、

 

「そうだ」

とこの男(※沖田総司 筆者注)はつぶやくようにいった。

「用を思いだした。ちょっと中洲までひきかえしてきます」

この男の用がどういうものなのか土方にはわかっている。

土方は、鴨川堤を、南へ歩いた。数歩あるくうちにやりきれない感情がつきあげてきて、

(化物め)

と、唾をはいた。

唾が地上に達するころ、堤の下で、低い、しかし特徴のあるうめき声がきこえ、すぐ瀬の音にかき消された。

(惣三郎め、美男すぎた。男どもに弄られているあいだに、化物が棲みこんだのだろう)

土方は、和泉守兼定の鯉口を、そっと左手の指でゆるめた。

抜きうちに、斬った。おさめた。桜の若木が、梢で天を掃いて倒れた。

胸中の何をきったのか、当の土方自身にもわからない。

新選組血風録 新装版 (角川文庫)

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 この沖田総司が加納惣三郎を一見なんの気もなしに斬るというのが、司馬遼太郎の描く沖田総司像の最も美しい姿であるのに、映画では沖田が何のためにその場を去ったのかが分かりづらくなっていると感じた。加納惣三郎が斬られたという様子も窺い知れない。

役者さんの風貌や語調は司馬遼太郎沖田総司にふさわしいのに、原作の「殺人天使ちゃん」のような朗らかな残忍さが今ひとつ欠けているようだ。

この作品の最大の見せ場は、そのカタルシスにこそあるのではないかと私は思う。

美貌の少年が新撰組をかき乱し、その美貌に靡かない沖田総司が彼を斬る。加納惣三郎を斬ったとき、私の中で沖田総司は彼の美貌をも吸収してさらに美しくなっていくのだ……とここまで云ってしまうともはや妄想の域だが、 これはただ加納惣三郎の美少年ぶりを前面に出そうとした映画のように思えてならず、残念な思いがしたし、まるでプロモーション動画を見ているような味気なさを感じた。