広寒宮

アマチュア作家・雨伽詩音の活動報告その他諸々

【書評】若菜くるみ「瞼の裏の水色の街」(『文芸ラジオ』一号掲載作品)

まず読んでいて感じたことはバランスがいい、ということ。物語の尺に対して内容が過不足なくまとめられているところがいい。物語の展開と構成にも無理はなく、登場人物たちの挙動にも自然な流れができている。何より台詞に頼りすぎることなく物語を動かしていく技量があることを印象づけられた。アマチュア作家にとってこれが一番難しいのではないだろうか、と私は感じる。

登場人物たちもそれぞれ個性的で、主人公の僕は美大生、同じく美大生である原拓也は彫刻で生計を立てたいと願っている「体育会系」の青年、夜の公園で鋏を鳴らしながら主人公に髪を切らせてほしいと云い寄ってくる美容師見習いの三上は色弱という設定になっている。そして欠かせないのが主人公と原とをつなぐ犬のクロ。

物語はこの三人と一匹をめぐる筋書きになっており、主人公の「僕」と原はクロを仲介して手紙をやり取りすることで接近するものの、結果的に原の結婚という形で二度と顔を合わせなくなってしまう。だが原は「僕」と離ればなれになった後も「僕」に頼んで型を取っておいた「僕」の頭の彫刻を続け、卒業制作の展示の場で「僕」はその作品と対面することになる。

ふたりには手をつないで走るシーンもあるし、ここだけ読んでいくとBL風味でいいなぁと思わなくもないのだが、それは一腐女子の戯言として片づけておくことにしたい。それはおそらく著者の意図ではない……はず、だ。

クロは保健所に引き取られ、原との縁が絶たれて、物語は三上と僕との淡いラブストーリーへと切り替わっていく。最終的に「僕」は彼女が選んだ「水色」(青味がかったピンク)で絵を描くことを決意する、という詩的なエンディングになっている。

何か特別目を見張るような展開があるわけでもなく、引用しておきたい台詞があるわけでもない。それでもここまで物語として完成されたアマチュア作家の作品を読むのは久しぶりのことのような気がする。すべてが丁寧に作り込まれていると云っていいだろう。次号の文芸ラジオでも作品を読めるのが楽しみだ。