広寒宮

アマチュア作家・雨伽詩音の活動報告その他諸々

【活動報告】摩天楼奇譚

先日Twitter300字SSに寄稿した作品をカクヨムに移しました。10月分を移植するのをすっかり忘れていたため、ふたつ併せて更新しました。

kakuyomu.jp

 

kakuyomu.jp

 

一応、このブログは「このページだけで作品を読める」という点に重きを置いているので、重複にはなりますが、個人サイト「紫水宮」に載せたものも貼っておきます。

http://star-bellflower06.tumblr.com/post/180681780773/摩天楼奇譚

star-bellflower06.tumblr.com

前回の「東方瑠璃光世界」と同じく、この「摩天楼奇譚」も仏教がベースとなっている作品です。今回は珍しく現代が舞台で、いわゆる転生モノと呼ばれるジャンルです。あかあかやと詠んだお方は今更ここに書くまでもないので言及しませんが、よもや自分が転生モノを書くことになろうとは思ってもみませんでした。
だいたいこういう作品は即興で書いているので、実際にPCに向かってみなければ、何が生まれてくるかもわからないのですが。


いわゆる転生モノは私はどちらかというと苦手で、別の畑にいた時も極力避けてきたのですが、自分が書くときには人物にフォーカスするというよりは、彼の来し方行く末が時代を超えて直でつながるという面白さに惹かれたのでした。
永久の時間というものにフェティシズムを感じる類いの人間なので、時間操作の魔力に魅せられたのかもしれません。
そういうわけで時間SFが気になる今日この頃です。

www.hayakawa-online.co.jp

津原泰水のSFというと、彼から譲ってもらった『バレエメカニック』が面白かったので、こちらもぜひ読んでみたいところですね。

バレエ・メカニック (ハヤカワ文庫JA)

バレエ・メカニック (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 

 

そしてTwitter300字SS公開日は、かもめソングの方も担当日だったので、「図書館という味方」というエッセイを書きました。

http://kamomesong.tumblr.com/post/180680917382/図書館という味方

kamomesong.tumblr.com

 

こちらは昨年書いたかもめソング — 図書館という希望というエッセイの姉妹編のような作品ですが、図書館に関するブログ記事やライフハックの記事をネットで読みあさって、それでもかゆいところに手が届かなかったので書いたのでした。
半ば自分への叱咤激励をこめて書いたのですが、パセリ流星群を主宰しておられるスケザネさんから「嘉村さんにとって図書館とは家庭なのですね」というお言葉をいただきまして、ようやく腑に落ちた気がしました。
先日は録画していたNHK美の壺」の図書館特集を観ていて、図書館の使い方も見方も求めるものも十人十色なのだなぁということを実感しました。
そのなかで自分なりの図書館との付き合い方について、一度まとめてみたくなって今回筆を執ることにしたのでした。
おかげさまでいつもより多くの方々にご反応いただけて、感謝の気持ちでいっぱいです。
今後とも折に触れて図書館のことをエッセイに書いていけたらと思います。

 

11月25日(日)【第二十七回文学フリマ東京】に参加します

とは云っても直接参加でも委託参加でもなく、アンソロジーに寄稿した作品で参加するという形なのですが。

 

【D-47】単色スペクトル様
酒アンソロジー第二弾『生きは酔々 二軒目』

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古今東西の酒をテーマとしたアンソロジーです。
私は「山妖記」という白酒をテーマとした和漢折衷妖怪ファンタジー短編小説を寄稿します。
文芸サークルに所属していた大学時代以降に参加した同人誌では、今年の5月に『かもめソング』に寄稿した「翠の鳥」に続き、二作目となる作品です。
人と妖怪の血をめぐる物語になっています。
ぜひぜひお手に取ってご覧下さい。

 

 

【A-13】ザネリ様
手製本アンソロジー『MARGE』

ピンクの丸い紋を織り込んだ絹地を表紙に使用。
「ピンクのMARGE(まるげ)とはなにか」を合言葉にした短編アンソロです。
12人の書き手によるさまざまな「まるげ」を目撃されたし!


著者
磯崎愛 @isozakiai 唐草銀河


うさうらら @usaurara 卯楽々堂


オカワダアキナ @Okwdznr ザネリ


かくら こう @ohanasi_cafe おはなしの喫茶室


嘉村詩穂 @poesy_rain 紫水宮


きよにゃ @kiyonya3 招福来猫


雲形ひじき @kmkymr 三日月パンと星降るふくろう


座木春 @86krk 四月の魚


ツカノアラシ @tukano_2013 万恒河沙


凪野基 @bg_nagino 灰青


塒之 @neguran0


宮田秩早 @takoyakiitigo バイロン本社

 

ウェブカタログ

c.bunfree.net



試し読み

usaurara.hatenablog.com

 

私はピンクのまるげを「羽」と解釈し、明治の病院を舞台にしたサナトリウム文学風掌編「患者番号08396」を寄稿しています。
普段は東洋風・和風の物語を書くことが多いのですが、今回はちょっと西洋風寄りで書いてみました。サナトリウム文学だと横光利一の「花園の思想」「春は馬車に乗って」が好きです。

 

 

なお、今後のイベントへの直接参加は来年5/6文フリ東京を予定しております。
第二詩集と句集を頒布するつもりです。
3/21のテキレボは一般参加の予定です。

【活動報告】東方瑠璃光世界

■Twitter300字SS
東方瑠璃光世界

http://star-bellflower06.tumblr.com/post/179716772361/東方瑠璃光世界

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仏教をイメージした掌編を書きました。インスピレーションの発端は、最近再読した谷崎潤一郎蘆刈」の冒頭部のくだりです。

 

吉野葛・蘆刈 (岩波文庫 緑 55-3)

吉野葛・蘆刈 (岩波文庫 緑 55-3)

 

 


『遊女記』の中には、観音、薬師、熊野、鳴渡(なると)などという名が伝わっているがそれらの水の上の女どもの多くは何処へ行ってしまったのであろうか。かのおんなどもがその芸名に仏くさい名前をつけていたのは婬(いん)をひさぐことを一種の菩薩行(ぼさつぎょう)のように信じていたからであるというが、おのれを生身(しょうしん)の普賢(ふげん)になぞらえまたあるときは貴(とうと)い上人(しょうにん)にさえ礼拝されたという女どものすがたをふたたびこの流れのうえにしばしうたかたの結ぼれるが如く浮かべることは出来ないであろうか。


仏教と遊女という取り合わせが面白く、また心惹かれたためにこのような作品に仕立ててみたのでした。

 

おかげさまでうれしいご感想をいただきました。改めまして感謝申し上げます。

 

なお、この作品は以下のモーメントにまとめております。

ここ最近「紫水宮」に載せた作品の中で評価をいただいた詩や俳句がご覧になれます。

twitter.com

 

■詩
墓標の詩

http://kamomesong.tumblr.com/post/179715794615/墓標の詩

kamomesong.tumblr.com

 

曹植の「吁嗟(くさ)篇」を踏まえて書いた詩です。


吁嗟此轉蓬 吁嗟(ああ) 此の転蓬(てんぼう)
居世何獨然 世に居(お)る 何ぞ独り然るや
長去本根逝 長(とお)く本根(ほんこん)を去りて逝き
夙夜無休閒 夙夜(しゅくや)休閒(きゅうかん)無し(…)

 

この詩は文芸ラジオ一号に寄稿した「翡翠譚」にも引用したほど思い入れのある詩のひとつなんですが、今回どうしてもこの詩を使いたかったのは、某出版社の『文選』の宣伝文句に疑問を抱いたからなのでした。(吁嗟篇は『文選』には入っていませんが)
古典には巧言令色を弄さずとも、時代に媚を売らずとも、純然たる価値があるはずだと私は信じていたいです。
それはともかく、前から形にしたかった中華×SFを詩という形式で表現できて、少し安堵しています。
かもめメンバーの御影あやさんからもご好評いただいたので、今後ともまた違う形で書いていきたいなと思っています。

 

■俳句
秋声

http://star-bellflower06.tumblr.com/post/179481964102/秋声

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秋風という題で俳句を詠もうという話になり、即興で詠んだのが「秋風や兄を攫ひし鬼の声」でした。
それに続く句を詠んでみたのが「秋声」です。こうして一二年ほど俳句を詠んでいると、季語の乏しさを改めて感じますね……。歳時記を買って勉強しようかなと思っているところです。

【活動報告】月下秋愁

おかげさまで近ごろはTwitterでご感想をいただいたり、個人サイト紫水宮でリアクションをいただくことが増えて、本当にありがたいかぎりです。
この場を借りて御礼申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。
9月~10月初旬にかけて書いたものを以下にまとめてみました。

 

■俳句
月下秋愁
月をテーマに俳句を詠みました。月というモチーフへのあこがれは、私が全体の作品のテーマとして掲げている、雪月花の中でもひときわ強いのですが、公開したのが9月ということもあって、今ここでこの題で詠まねばなんとするという気持ちで詠みました。

http://star-bellflower06.tumblr.com/post/178075787082/月下秋愁

star-bellflower06.tumblr.com

 

暗黒神話
神道と仏教をテーマに詠みました。記紀神話ツクヨミの解釈には個人的に釈然としないものを感じていたのですが、今年の中秋の名月を見上げていたときに、「ああこれならたしかにツクヨミウケモチを殺すわ」と腑に落ちたのがきっかけでした。いったい何を云っているのやら……。
全体的なイメージとしては中上健次の『千年の愉楽』のような、聖なるものでありながら修羅のようでもある、煮えたぎる情念の世界を俳句に託しました。

http://star-bellflower06.tumblr.com/post/178440998797/暗黒神話

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■詩
小夜遊戯
帰省先の長崎で書いた詩の一作目。花あやめという言葉は萩原朔太郎の詩からお借りし、全体的な雰囲気は行きの飛行機で読んでいた森茉莉へのオマージュです。西洋風の耽美な詩はこれからももうちょっとバリエーションを増やしていきたいところです。

http://star-bellflower06.tumblr.com/post/178600488652/小夜遊戯

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最後の手紙
長崎から東京の友人に宛て書いた手紙が思うように書けず、詩に託したのがこの一作。丸山遊女の派手好みな袖、というのはいわゆる「長崎衣装」のことなんですが、固有名詞だと伝わりづらいのでこういう形容になりました。

http://star-bellflower06.tumblr.com/post/178666874167/最後の手紙

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宿借記
こちらも長崎で書いた一作。谷崎潤一郎「秘密」にインスパイアされた作品で、僧坊を間借りしている旅人の目線で書いた一作なのでこのようなタイトルになりました。行きの飛行機でエロスとアガペーについてぐるぐる考えていたのが如実に出ている気がします。竹雀氏から「美僧がまたひどい目に遭っている」と評されましたが、美僧はついいじめたくなりますね。

http://kamomesong.tumblr.com/post/178785523578/宿借記

kamomesong.tumblr.com

 

たましいのふるさと
故郷に帰って書いた詩。生まれは市街地の方なのですが、祖母の家に預けられて田園風景が広がる田舎で育ちました。
数年ぶりに帰った故郷では猪よけの柵が里全体にわたって張り巡らされ、かつては花やお神酒が供えられていた祠や水神・土神の碑も、草木に埋もれてしまっていました。その光景を詩に仕立てました。次回作はまた違った切り口と語りで故郷について詩を発表する予定です。

 

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parsleymeteor.hateblo.jp

 

■エッセイ
白洲正子とわたし
高校時代を経て大学時代に再会した白洲正子との思い出をエッセイに綴りました。このような出会い方をした文筆家は後にも先にも彼女だけだと思います。奇遇といいますか、奇縁といいますか……。白洲正子ファンの方はもちろん、そうでない方もぜひご覧ください。

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【活動報告】詩と掌編、俳句

ずいぶんと間が空いてしまったので、その間に書いたものがけっこう溜まってしまいました。やや駆け足になりますが、手短に紹介させていただきます。

 

■夏企画
夢花火

夏企画

平成最後の夏というテーマで「夢花火」という詩を寄稿させていただきました。サイトのレイアウトがとにかくおしゃれで、アオリ文までつけていただけたのが本当にうれしかったです。ぜひサイトの方でご確認ください。

 

ありがたいことに感想をいただいております。

言葉の響きにこだわって書いた作品なので褒めていただけてたいへんうれしいです‥‥!

 

 

 

■パセリ流星群
7月に書いた補陀落渡り」はこちらのTwitterモーメントにまとめていただいています。文庫本のような感覚で読めるので是非ご覧ください。

twitter.com

ご感想もいただいております。 

 

 

■紫水宮

秋宵抄

http://star-bellflower06.tumblr.com/post/177796685747/秋宵抄

star-bellflower06.tumblr.com秋をテーマに、体調を崩した時恒例の俳句を詠みました。同じモチーフを多用しがちなので、もう少し引き出しを増やしたいところですね。

 

 

■かもめソング
人体標本

http://kamomesong.tumblr.com/post/177617714870/人体標本

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紫水宮に載せた「あなたへ」「夢花火」はわりとピュアなイメージが続いていたので、反動が出てSっ気のあるものを書きたくなってしまいました。書いている最中はあまり意識していなかったのですが、学生時代に読んで衝撃を受けた『家畜人ヤプー』の影響を未だに引きずっているようです。耽美×SFの組み合わせはなかなか面白かったので、もう少し色々書いてみたくなりました。ちなみにこの作品のロケ地は某動物園の昆虫館にある昆虫標本の部屋なのでした。

 

Twitterでもいつもより反響をいただけて、たいへんうれしかったです。

 

この作品を書いている間、ずっとAural Vampireを聴いていて、久しぶりに書いていて楽しいと感じた詩になりました。ぜひこちらを聴きながらご覧下さい。


Aural Vampire - Cannibal Coast With Lyrics



【読書感想】太宰治「駆け込み訴え」

太宰治「駆け込み訴え」

駈込み訴え

駈込み訴え

 

一体何のテレビ番組だったか、確かNHKの特集番組だったと思うが、朗読でこの小説の冒頭が語られていたのを鮮明に覚えている。

“申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。”

この勢い余った文章が叫ぶような朗読の声に乗せられて響いたとき、私は鳥肌が立った。以来、「駆け込み訴え」という小説の名は頭の片隅にあったのだけれど、今に至るまで読むことはなく、先日たまたま竹雀氏と飲んでいて太宰の名前が出て、急にこの小説を読みたいと思ったのだった。
太宰治の小説は高校生の頃に多少読んだきりで、ほとんど内容も覚えていないという有様だったし、心身の調子が安定しない大学生活を送ってきたこともあって、再読しようという気にはなれずにいた。未だに太宰治というと、少し身構えてしまうのだけれども、いざ読んでみると一気に引き込まれた。
なんと云っても文体の勢いが他に類を見ないほどで、こういう文章を真似して書こうとすると、私のような素人はまず間違いなく怪我をする。内心の叫びを非情なまでに冷徹な目で見つめたこの作品の文章は、真似しようと思ってそう簡単に真似できるものでもない。

 

この作品を読んでいて、最も印象に残ったのは次の台詞だった。

“おまえにも、お世話になるね。おまえの寂しさは、わかっている。けれども、そんなにいつも不機嫌な顔をしていては、いけない。寂しいときに、寂しそうな面容をするのは、それは偽善者のすることなのだ。寂しさを人にわかって貰おうとして、ことさらに顔色を変えて見せているだけなのだ。まことに神を信じているならば、おまえは、寂しい時でも素知らぬ振りをして顔を綺麗に洗い、頭に膏を塗り、微笑んでいなさるがよい。わからないかね。寂しさを、人にわかって貰わなくても、どこか眼に見えないところにいるお前の誠の父だけが、わかって下さったなら、それでよいではないか。そうではないかね。寂しさは、誰にだって在るのだよ”

 

このイエスの台詞は、おそらく太宰が自分自身へ向けたメッセージなのだろうと私は感じた。すなわちこの作品に描かれたユダとは太宰であり、

“おのれを高うする者は卑うせられ、おのれを卑うする者は高うせられると、あの人は約束なさったが、世の中、そんなに甘くいってたまるものか。あの人は嘘つきだ。言うこと言うこと、一から十まで出鱈目だ。私はてんで信じていない。けれども私は、あの人の美しさだけは信じている。あんなに美しい人はこの世に無い。私はあの人の美しさを、純粋に愛している。それだけだ”

 
という箇所は太宰自身の信仰への告白だと読み取った。
“おのれを高うする者は卑うせられ、おのれを卑うする者は高うせられる”という聖句は、傲慢と卑屈さを同時に抱え、その狭間で苦しんだ太宰にとって何よりも響く言葉だったのだろうと思う。だからこそ数ある新約聖書の言葉の中でこの箇所が抜き出されたのだ。

 

そしてユダの、云い換えれば太宰のこうしたメンタリティは、他に例を挙げるならばドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』に出てくるスメルジャコフを彷彿とさせる。
彼もまた卑屈さと傲慢さを兼ね備えた人物であり、カラマーゾフ家の家長・フョードルの従僕でもあって彼を殺害するに至る。
両者に相関関係があるかどうかは素人の私には分からないが、誰もがドストエフスキー作品を読んでいた時代にあって、太宰が『カラマーゾフの兄弟』を読んでいなかったということはないだろう。そしておそらく太宰が最も共感を覚えるキャラクターは、スメルジャコフではないかと私は思う。


それはともかく、この小説の最大の肝となっているのは、終盤のくだりだ。

“「私がいま、その人に一つまみのパンを与えます。その人は、ずいぶん不仕合わせな男なのです。ほんとうに、その人は、生まれて来なかったほうが、よかった」”

この台詞は太宰作品に通底するキーワードとなる言葉でもあり、それを他ならぬイエスが口にすることでユダは裏切りを決意するに至る。ここに太宰がこの小説を書く理由があったと私は思う。そしてこの裏切り以降の描写に太宰の作家としての真髄がある。


“おや、そのお金は? 私に下さるのですか、あの、私に、三十銀。なる程、はははは。いや、お断り申します。殴られぬうちに、その金ひっこめたらいいでしょう。金が欲しくて訴え出たのでは無いんだ。ひっこめろ! いいえ、ごめんなさい、いただきましょう。そうだ、私は商人だったのだ。(…)いやしめられている金銭で、あの人に見事、復讐してやるのだ。これが私に、いちばんふさわしい復讐の手段だ。”


“私は、あの人を愛していない。はじめから、みじんも愛していなかった。はい、旦那さま。私は嘘ばかり申し上げました。私は、金が欲しさにあの人について歩いたのです。おお、それにちがい無い。あの人が、ちっとも私に儲けさせてくれないと今夜見極めがついたから、そこは商人、素速く寝返りを打ったのだ。金。世の中は金だけだ”


一見露悪的とも取れるのだが、小説の〆として成り立たせるためには、きちんとした計算と、ユダである自分自身を冷静に客観視する態度がなければこの描写は出てこない。感情に任せて書いているように見えても、そこには冷徹な観察眼が光っている。

最後になってようやくこの主人公がイスカリオテのユダであることが明かされるが、それは多少なりとも聖書の知識がある人であれば、冒頭数ページを読むと自ずと理解できるので、重要なのはこのオチではない。
この引用の箇所を文字通り解釈すれば、ユダが裏切りの対価を受け取り、己は商人であるという自覚を強く意識することで、金銭、ひいては自分自身を卑しんできたイエスへの憎悪が爆発した、とも読めるのだが、自らを金の亡者、つまり悪人だと思い込むことでしか、裏切りへの罪悪感を払拭できない、愚かで弱いひとりの男としてのユダの姿を克明に浮かび上がらせていると私は感じた。そしてその弱さそのものを太宰は描きたかったのだと。

【活動報告】詩と俳句、千字掌編

■お知らせ
詩集『挽歌-elegy-』は、残部が少なくなってきたこともあり、また増刷の予定はないため、いったんここで通販を締め切ることにしました。
また来年5月の文フリ東京にて頒布する予定です。
出店が確定しましたら、また追ってお知らせいたします。
 
以下、いつもの活動報告です。
 
■俳句
相変わらずこの夏は臥せることが多く、おかげで普段より多くの俳句を詠みました。
今回詠んだ作品たちは自分の内面性と空想をふくらませた世界とをコラージュしたもので、これまでの作風とは少し異なる雰囲気になったかなと思います。
まだまだ模索中ですが、こういう手法をもっと磨いていきたいです。
http://star-bellflower06.tumblr.com/post/176730109012/逝夏

star-bellflower06.tumblr.com

 

■詩
旧暦の七夕に寄せて書きました。
そういう日ではないはずなのに、心に去来するのは亡くなった「あなた」の思い出です。ほのかに宮沢賢治リスペクトです。

http://star-bellflower06.tumblr.com/post/177091353867/あなたへ

star-bellflower06.tumblr.com

 

■千字掌編
パセリ流星群に千字ほどの掌編を寄稿いたしました。
谷崎潤一郎「刺青」にインスパイアされた架空の文士のお話です。
お読みになった方に“都々逸よろしく小気味良い文体”とご感想をいただきましたが、元々泉鏡花の影響もあって、こうしたリズミカルな文体が好きなので、書いていて大変楽しかったです。当時の雰囲気が伝わればいいなと思います。

parsleymeteor.hateblo.jp